第36回 「クライマックスシリーズ開幕」色情スパイラル

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予想だにしない暴挙に出て以降、相田は出社しなかった。
社内は、退屈な日常に突如祭りが起きたかのように、誰もがどこか楽しげな顔をしてうかれていた。他人の自業自得による転落を安全圏で眺めるのが人は大好きなのである。
それは自分の人生に与えられた幸福の量の少なさを他人の不幸で補おうとする、いやらしさ、浅ましさのようなものがあった。
信二はデスクでPCを叩きながら、湯水にごとく湧き出す相田の噂話に差し障りのない返事をしていた。
いまや、社内のトレンドキーワードは、

「豊洲」を抑えて「相田」だったのである。

もし相田の女装趣味のことが明らかになれば、こいつらは発狂して喜ぶにちがいない。

だけどお前らには教えてやんねーよ。

信二は、自分と真由子だけが握っているこの秘密のカードを大事にしようと思った。
あれ以来、二人のデートは相田を追い詰める計画の会議と化していた。
そしてそのサディスティックな興奮の勢いでセックスに突入するのがお決まりとなっていた。
いまや二人を興奮させるのは

「脱法ハーブ」ではなく「相田」だったのである。

相田が、二人の仲に気づいていながら真由子を粘着質に詰めていたことに信二は初め激しい怒りを覚えたが、役職に就きその座にあぐらをかきながら、一歩外に出れば男の欲望を満たすことのできぬ哀れな中年男の僻みと思えば、むしろ優越感が勝った。
そして、女装趣味という泣所を握ったいまでは相手を哀れむという気持ちまで浮かんでいたのである。
だが、それは圧倒的強者が持ちうる、偽りの慈悲であった。
信二は子供の時に読んだ絵本に出てきた孫悟空を掌で弄ぶお釈迦様を思い出した。

外回りの営業は、信二にとって好都合な仕事だった。
サイドビジネスにおいて自在に動くことができたためである。サイドビジネスといっては聞こえはいいが、それはいわゆる恐喝の類であった。
相棒の中山と共謀して、セックス写真を撮ってゆするのである。
爆発事件後、廃墟と化した渋谷のラブホテル「ラブる」はまさにうってつけの場所で、
面白いようにカモを見つけることができた。
中山は「ダイ」と呼ぶ恋人と美人局のようなことをやり、多くの人間から金を巻き上げていた。
ダイはベリーショートの髪型で、相手に合わせてウィッグをつけたりメイクを変えたりしていた。自分のことを「俺」というこの娘に、信二は薄気味悪さを感じた。
ある日中山が「面白いの撮れたぜ」と見せてきた写真に信二はクギ付けとなった。
それはダイと少女が絡んでいる写真だった。出会い系でダイが見つけてきたとのことだった。

 

明日の日記へ続く。

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